ユニクロと選挙とコールセンター その2

 最近読んで面白かったノンフィクションといえば、①『ユニクロ潜入一年』横田増生(文藝春秋)、②『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』畠山理仁(集英社)、③『だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人』水谷竹秀(集英社)だ。
 3冊に共通するのは、取材現場が目に浮かんでくる。しっかり耳を傾けている点だ。


②『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』は、「泡沫候補」と呼ばれてきた人たちを取材してきたルポルタージュだ。取材に20年、開高健ノンフィクション賞を受賞し、ようやく日の目をみることになったものだ。
 登場する候補者中いちばんの有名人はスマイル党のマック赤坂氏。長年取材してきたからこそのやりとりがある。

 2012年の東京都知事選挙(猪瀬直樹氏が当選)ではスーパーマンの格好で街頭で踊っていた。選挙のたびにヘンなパフォーマンスをするのは理由がある。いくらマジメに政策を訴えようとも、誰も耳を傾けてくれない。メデイアも「独自の活動をしている」ですます。まず注目される必要がある。そのためのパフォーマンスだという。
 候補者の中には、赤坂さんと同様の考えの人が少なくない。NHKの政見放送で「ポコチン」を連発し、異例の「無音」放送を引き起こした後藤輝樹さんも、そのひとりである。
 選挙ポスターで全裸や旭日旗を背後に軍服姿で写ってみたりと、アブナイ人に見えるのだが、畠山さんは2016年の東京都知事選の選挙公報に掲げられた、後藤さんの政策の数に注目する。
 「江戸城天守閣を再建」
 「築地市場移転を中止、見直し」
 「東京五輪中止または超低コストでやります」
 「横田基地を返還させ、横田空域を開放し、首都圏の空の主権を回復します」
 「排気ガス税導入」……なかには「1度だけ歯列矯正を無料にします」というのもあり、どの候補よりも多い。他の候補者と重なるものもあるが、思いつきでこれだけの数の政策を並べるのは至難の業だと畠山さんはいう。では、なぜ放送禁止用語を連発したのか。

 「もともと自分が立候補したのは、『なんだこいつは』『なんでこんなやつが立候補しているんだ』と驚きを与えることで、みなさんに政治に関心を持ってほしいと思ったからです」
 後藤さん答え方はきちんとしていて、黙っていると「イケメン」が際立つ。

 選挙に出るには高額の供託金が必要だ。都知事選挙だと、300万円。規定の得票数を得られない場合は没収されてしまう。「独立候補」に共通するのは、組織的なバックを持たないこと。レアメタル事業で得た資産を選挙に投じてきたマック赤坂氏のようなお金持ちは例外で、サラ金をハシゴして集めたとか、クラウドファンディングで集めようとしているとか、誰もが供託金には苦労している。

 後藤さんも、「自分はお坊ちゃんではないです。普通の家庭に育ちました。政治家を目指そうと思った時から、立候補を目指してお金を貯めてきたんです。アルバイトもしたし、株とかもやってコツコツ貯めてきた。オレは、枡添さんよりもセコい自信があります」と答えている。

 たとえば後藤さんの「独自の戦い」は、街頭演説を行わず、公共施設の会議室を借りて個人演説会を重ねたこと。ツイッターを見てボランティアとして支えてくれる人が増えていったという。「ポコチン」からはイメージできない、地道な活動ぶりである。このとき、後藤さんは33歳。畠山さんは10歳年下の後藤さんに、しっかりした考えをもっていると感嘆する。
 本書の面白さの根底には、畠山さんの人柄がある。どんな候補に対しても、上から目線にならない。立候補には大きなリスクがともなう。それでも選挙に出ようとする各人に社会をよくしようとする「公共心」があるという。ちなみに後藤さんの都知事選の得票数は、7031票。21人中の13位だった。

 本書でボリュームを割いているのはマック赤坂さんへの密着ルポだ。三分の一を超え、選挙活動中の出来事が詳しく紹介されている。マスコミが報じてこなかった、知らないことばかりだ。しかしさらに面白いのは、マック赤坂さん以上に「黙殺」されてきた候補者たちに対しても、同じ熱量で取材していることだ。
 畠山さんが用いる「無頼系独立候補」という名称は、「泡沫候補」という言葉が嫌だから。人を見下している感じがする。もともとは、お笑い芸人集団「大川興業」の大川豊総裁が「週刊プレイボーイ」で政治ネタの連載を始めたときに取材記者として加わり、そのときに「選挙」にハマったのが発端だという。とりわけ誰も注目しない候補たちに。
 長ったらしい名称になったのは、大川総裁が「インディーズ候補」という名称を使っていたことから流用を避け、自分なりに「無頼系独立候補」を選んだという。律儀というか。そういえば野球に「独立リーグ」というのがあったな。

2016年の都議選には、

主要三候補以外にも18人の「黙殺」された候補がいた

 わたしの読書のツボは後半、2016年の東京都知事選のレポートだ。小池百合子さん、増田寛也さん、鳥越俊太郎さん。「主要三人」の決戦とされたが、それ以外に18人の立候補者がいた。先にあげた後藤さんもそのひとりである。なかには、兵庫県加西市長を務めたこともある中川暢三さん。元労働大臣で「政界の牛若丸」といわれた山口敏夫さんもいたが、すべて「その他」扱いとなった。

 その際の「独自の戦い」で目をひくのは「ヤドカリ」。街宣車が用意できない候補が、持っている候補の壇上に便乗する。そんなんあり? どうやら、ありらしい。どうぞと許してしまう候補の太っ腹なことに驚いた。
 たとえば、山口敏夫候補の宣伝カーを間借りして街頭演説を行った山中雅明さん。本業は茨城県の税理士で、初めての選挙だという。ヤドカリは山中さんひとりではなかった。
 30代のいかにも好青年な高橋尚吾さん。彼もまた初めてのことで、マイクもスピーカーも持っていないという。独立候補が揃った公開討論会の場で、それを耳にした「NHKから国民を守る会」の立花孝志さんは、「だったら、僕のマイクと街宣車を使ったら?」とすすめ、立花さんが演説し終わると、入れ替わりに高橋さんが演説を始める。
 高橋さんが変わっているのは、選挙戦の中盤から他の候補の応援演説に積極的になることだ。「選挙は戦いではない」とインタビューに答えている。交通事故で足腰に障害を負った宮崎正弘さんの街頭演説に駆けつける場面が、いい!!
 宮崎さんは背中のリュックから電子端末の画面を覗かせて政策を掲示、脚立やアンプやマイクなどを積んだキャリーカートを引っ張り歩いていた。次の演説場所まで、高橋さんが宮崎さんの荷物を持ち付き添う場面を、畠山さんは目撃している。まさに「独自の戦い」である。

 さらに本書で驚かされるのは、立候補者は積極的な人だとは限らないことだ。ひきこもっていた人が一大決心して立候補。出てはみたものの、街頭演説に尻込みする場面に惹かれる。これを読むまで、どうして当選の見込みもないのに選挙に出ようとするのか。「ヘンな人」たちとひと括りに考えてきた。まあ、ヘンはヘンなのだが、畠山さんがいうように、きわめてマジメな人たちだというのがわかる。
 というか、だんだん、選挙にかける姿勢を見ていると、どこからが「主要候補」で、どこからが「泡沫候補」なのか。一線が曖昧なものに思えてくる。あれほどテレビに出ていた元大臣の山口敏夫氏ですら、組織を背にしないとなると「泡沫」に組み込まれるのだから。何を目安に、「ひと」を選んでいるのだろうという疑心が芽生えもするのだ。
(つづく)

Profile/プロフィール

「ウラカタ伝」 waniwanio.hatenadiary.com

ブログのインタビュー連載 「葬儀屋、はじめました。」

otomu.hatenadiary.com

朝山 実(あさやま・じつ) 1956年、兵庫県 生まれ。地質調査員、書店員などを経て 、ライターとなる。「居 場所探し」をテーマに人物ルポやインタビューを数多く手がける。著書に『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP 社)、映画のノベライズ『パッチギ!』(キネマ旬報 社) 、アフター・ザ・レッド 連合赤軍 兵士たちの40年』(KADOKAWA)、『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社)など


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